受賞作品紹介

平成24年6月15日(金)〜8月8日(水)に募集した、第十回自主制作映画コンテストには ドラマ・ドキュメンタリー・アニメーションの62作品の応募がありました。 審査員と実行委員による予備審査が行われ、下記のとおり受賞作品が決まりました。
作品は上田市マルチメディア情報センターの映像ライブラリーに収蔵しています。無料でご覧いただけます。


大賞

監督:杉目七瀬 作品名:「小野寺たまこの初恋」(40分)

審査員賞

大林千茱萸賞 監督:佐藤公紀 作品名:「空の白」(38分)
永井正夫賞 監督:横山善太 作品名:「ヒロさんの引っ越し」(30分)
古厩智之賞 監督:三原慧悟 作品名:「あるロボットの話」(23分)

受賞作品紹介

大賞

「小野寺たまこの初恋」

監督:杉目七瀬(40分)
小野寺たまこの初恋

<あらすじ>
地味で冴えないたまこ23才。絵をかくのが好きで、そればかりしていたら23年間彼氏なし。現在はエロ漫画のアシスタントをしている。職場では実践が大切だと編集長にセクハラを受ける毎日。そんな時、電車で初恋相手のタカシと再会する。タカシが傘を忘れた事をきっかけに、2人の距離は近づいていく。
<応募作品についてのメッセージ>
ああ、この人変わってしまったな、と久しぶりに友人に会うとそんな事を不安に思ったりする。でも話してみると変わってないな、と安心したり。人って変わってるようにみえて変わってなかったり変わってないようにみえて変わっていたり、そんな生き物だと思う。変わる時はきっと凄く辛くて、かっこ悪くて、それには必ず誰かがかかわっていて、それが私かもしれない。そんな映画をつくりたかった。

審査員賞(大林千茱萸賞)

「空の白」

監督:佐藤公紀(38分) 空の白

<あらすじ>
かおるの交通事故から1年。昏睡状態の姉を見舞いに来た雫は、かおるの恋人、満と再会し、満に惹かれていく・・・。2人は度々会うようになるが、満は雫とかおると重ねていた。行き場のない思いを抱えた雫は「何故死んでくれなかったのか」と話しかける。
<応募作品についてのメッセージ>

観ていただいた方の心に何かしらの作品の片鱗を残せたら、そう思い制作しました。

<監督自己アピール>
大阪芸術大学映像学科映画コースで映画を学んでいます。

審査員賞(永井正夫賞)

「ヒロさんの引っ越し」

監督:横山善太(30分)

ヒロさんの引っ越し

<あらすじ>
まるこはバイト先の先輩、ヒロさんに片想いをしている。ヒロさんはこの春大学を卒業し、東京に引っ越してしまう。まるこは引っ越し作業を手伝いに行き、告白しようとするが・・・。
<応募作品についてのメッセージ>

不器用で自分に自信のない女の子が、人生初の告白をしようと頑張る姿を描きたかった。春の心地好い空気と旅立ちのせつなさを感じてほしい。

<監督自己アピール>
2005年日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。以降自主映画制作をしている。2012年「幸せな時間」で初の劇場公開。
審査員賞(古厩智之賞)

「あるロボットの話」

監督:三原慧悟(23分)

あるロボットの話

<あらすじ>
小さい頃から世界に認められるロボットをつくるという夢を持つ大学生のふじお。しかし彼が開発してしまったのはとんでもないロボットだった。
<応募作品についてのメッセージ>
この作品は、就活する傍ら製作した「夢」「性欲」の話です。学生という身分ながら、株式会社ENGA様、ミス東スポ2012の木嶋のりこ様、オナニーマシーン様のご協力を得てようやく完成しました。将来に対する想いを、作品として形に残しました。
<監督自己アピール>
”学生にしか取れない映画”をモットーに真面目にふざけた作品を創っています。今年度も残すところ半年。「海を渡る」ことを目標に映画と向き合う毎日であります。

審査員コメント

2012年コンテスト総評

審査員:大林千茱萸
 まずはご応募戴いたみなさまに、心から感謝申し上げます。「自主映画」は、誰に頼まれることなく、まさしく「自主的」に制作される“個人映画”です。資金集めから人材の確保、機材の調達まで、ありとあらゆる「制作にまつわること」を御してゆかねばなりません。強い決意と、ぶれない志がなければ仕上げることはできません。さらには自分たちで上映する場所も探さねばなりません。そのような難関を飛び越えここ上田に集まった作品たちは、全応募数62作品、どれも個性的な作品ばかりでした。 今年の総括として、触れなくてはならないことのひとつには、去年までなかった「311」を題材にした作品が5本ありました。ドキュメンタリー的なものからドラマ、SF仕立てと、いずれも異なったアプローチの5本でした。プロの映画監督でも苦戦するテーマに挑むことは、さぞ勇気のいったことだと思います。 上田の自主映画祭では、よくある「ショートフィルム」の募集ではなく、逆に「15分以上〜無制限」という全国でもめずらしい、長編の応募を受け付けている映画祭です。未来に映像の仕事を目指す作家さんたちに、ぜひこの場をお使い戴き、将来への足がかりにして戴ければ本望です。みなさまのご応募を心からお待ちしております。

審査員:永井正夫
 今年は驚きを感じるような企画作品に出合いませんでした。3.11東北大地震を根底においた作品がいくつかありましたが、地震にまつわる描写や、捉え方をもっと深く大きく考えたものにして欲しかったと思います。 10年間審査に係わり若い人達との交流もあり、意義深いことでした。大変お世話になりありがとうございました。このコンテストのますますの発展を祈っております。
※永井さまが審査員を務められるのは今回が最後です。

大賞「小野寺たまこの初恋」 監督:杉目七瀬

審査員:永井正夫
 友情も恋愛も知らない漫画を描くメガネをかけた冴えないたまこが、電車の中で高校時代の野球部の初恋の人に会う。彼は父親のリストラを境に大学を中退、現在はフリーターである。彼の高校時代の華やかな活躍と一変した現在の打ちひしがれた生活感がよく描写され、共感を持ってみることができた。たまこの彼に対するひたむきさも丁寧に描かれていたと思う。たまこのエロ漫画への挑戦、自身のイメージチェンジを図る。彼は就職し、たまこは新たに漫画の勉強をはじめそれぞれ歩み始める。ふたりは電車の中ですれちがう。人生の一時期の変容を的確な眼差しで捉え、表現できていると感じた。

審査員:古厩智之
 よかった!感動しました。 あのエースの落ちぶれ具合、よかったなあ。電車のシートに寝転がるあの姿勢。歩き方。真っ黒で何も見ていない目。 そして、たまこもよかった。目つき、しゃべり方、勝手な「わたし」の理屈…。 そうだ。これは各々が勝手な自分一人の小宇宙に住んでいて、その宇宙同士はすれ違うけれど決して触れ合うことはない、という青春期の真実をものすごく端的に描いているのですね。 そして、そのすれ違う一瞬を逃さないように監督は目をこらしているからどのカットも真剣。 生きてること自体の寂しさを、だからこその喜びを見つめられ続けられる登場人物たちは輝いていました。傑作!

大林千茱萸賞「空の白」 監督:佐藤公紀

審査員:大林千茱萸
 最初の1フレーム目から、物語がしっかりと始まっています。言葉で促すのではなく、映像できっちりと説明していて、説明できており、観客を自然に物語へと導いてゆく。ふとしたショット(電線の向こうの空に飛行機が飛んでいたり、自転車が通り過ぎたり…)の、画面の作り込みや配置に奥行きと広がりがあって、状況の紡ぎ方がとても丁寧。観る人のことをちゃんと意識されているのが伝わります。物語を繋ぐエピソードのひとつひとつの重ね具合のバランスも絶妙でした。決して急くことのない、“間”のある演出も良かった。三脚をきちんと据えるドラマを綴るカットと、手持ちで詩情感を出すカットの使い分けも見事でした。 おはなしは、昏睡状態にある姉の事故は自分のせいだと、とても深く傷ついている妹の心の揺れ動きを丁寧に描いてゆきます。姉の恋人が、自分に姉を重ね想いを寄せるとは、なんと残酷にして切ないことでしょう。昏睡状態の姉と見舞いに来た妹の「とある場面」があるのですが、意識のない寝たきりの姉の、“生”の瞬間はきっと、本作を観る人々の心の深くに刻まれることと思います。25歳の監督さんの作品ながら、妙にクラシックな佇まいも感じさせる作品でした。次にどんな作品を観せてもらえるのか、次回作がいまから楽しみです。おめでとうございます。

永井正夫賞「ヒロさんの引っ越し」 監督:横山善太

審査員:永井正夫
 映画館に勤める内気で暗くブスな女の子、女性の館長とは合わず、お客も少なく毎日が同じことの繰り返し。この一年の唯一の救いはアルバイト大学生のヒロさん。しかし、彼は卒業後は東京に引っ越す。オールナイト明けの日曜日、彼女はヒロさんに引越しの手伝いを頼まれる。引っ越し作業中に寝てしまう。自分の気持ちを告白しようとするができずにヒロさんは引っ越ししていく。どこにでもいると思われる彼女の心模様とその周りの情景にぶれることのないカメラワークでまっすぐに伝えていると感じた。映画作法の上手さは見事だ。二度目の賞を贈りたいと思った。
※横山善太さんは第五回自主制作コンテストで永井正夫賞を受賞しており、今回で二回目になります。

古厩智之賞「あるロボットの話」 監督:三原慧悟

審査員:古厩智之
審査員賞おめでとうございます。本日は参加出来ず申し訳ありません。 審査員賞というからには、これは私(映画監督をしてます古厩智之)が選んだ賞なのですが。これを選んでしまったことが恥ずかしくてたまりません。 監督のあなたも確か慶応大学の学生でしたよね。慶応まで行って…お父さん、お母さんは泣いているぞ。 科学者の主人公がロボットを作る。ところがそのロボは女の子に対して湧き起こるエッチな気持ち、つまり煩悩をエネルギー源とする奴だった…。 ほら、ここまで書いただけで自分の頭が悪くなった気になります。 つまりはそういうしょーもない映画なのですが…。 先づ、このくだらないものを最後まである熱意を持って作り上げた努力に敬意を表します。俺なら途中で我にかえってやめてます。 さて、ここからはマジメな褒め言葉ですが、登場人物がみんなとてもよかったです。ヒロインはかわいいし、主人公は情けないし、ロボは何だかとてもイノセントで(煩悩いっぱいだけど)。 監督がキャラクターやそれを演じる役者たちに愛情を持ってることが伝わって来てこちらまで楽しかったり嬉しくなります。 愛情は伝染する。 楽しい時間を過ごせました。ありがとうございます。