うえだ城下町映画祭第九回自主制作映画コンテスト受賞作品
「タカボンとミミミ」を配信します。また全受賞作品を映像ライブラリーに収蔵しました。
大林千茱萸賞の「タカボンとミミミ」をインターネット配信します。
期間:平成23年12月16日(金)〜平成24年3月31日(金)
※終了しました
全受賞作品を上田市マルチメディア情報センター映像ライブラリーでご覧いただけます。
受賞作品紹介
平成23年6月16日(火)〜8月8日(月)に募集した、第九回自主制作映画コンテストには ドラマ・ドキュメンタリー・アニメーションの110作品の応募がありました。 審査員と実行委員による予備審査が行われ、この度、審査員による本審査が行われました。 その結果、下記のとおり受賞作品が決まりました。
大賞
監督:山田慧伍 作品名:「激情とビードロ」(51分)審査員賞
大林千茱萸賞 監督:酒井健宏 作品名:「CSL/タカボンとミミミ」(32分)永井正夫賞 監督:落合賢 作品名:「美雪の風鈴」(20分)
古厩智之賞 監督:鈴木祥 作品名:「ボーダー」(35分)
表彰式・大賞作品上映・受賞作品上映 ※終了しました
下記のとおり表彰式と上映を行いました。
11月12日(土)上田文化会館ホール ※終了しました
14:30〜15:00 | 表彰式 |
|
15:00〜15:51 (式終了後) |
大賞「激情とビードロ」 | 監督:山田慧伍 |
受賞作品紹介
審査員コメント
コンテスト総括(審査員:大林千茱萸)
今年はうえだ城下町映画祭自主制作映画コンテスト始まって以来最高の応募数110本! 今回は311に起きた未曾有の震災で日本中が辛い年であることから応募数は減るのではと危惧していただけにこの応募数は頼もしくもあり、嬉しい悲鳴でした。全作品を観るのは私の担当でさすがに気を失い欠けましたが、1作品ごとにきっちり向き合わせて戴きました。今年は私も2ヶ月がかりで地方ロケで映画作りに参加していたため、映画を観るのはその上映時間だけですが、製作時間はその何倍もの時間が費やされていることを身をもって知っているだけにこちらも真剣です。ただ正直110本も集まってくると、プロとして映像に関わっている作家さんの作品にはプロのスタッフや俳優さんも参加することもあるため、単純にそこにビデオがあるからと純粋な気持ちで素人さんが作られたものを同軸で審査して良いのだろうかという疑問も浮かび、骨の折れる作業でした。しかしながら上田市では映画人の育成(出発点が素人でも玄人でも)もあるため、応募作はひいき目なしに「1本の作品」として同軸で審査するよう務めました。まずは応募して下さった皆さまお疲れ様でした。そしてありがとうございました。受賞された方々、おめでとうございます。 その上で今回の総評ですが、110作品ですから110人の監督がいらっしゃるわけですが、同じテーマが多く見られました。カテゴリー的には「虚構世界と現実を行き来するファンタジー」、「都会で傷ついて故郷に戻り自分を見つめ直す自分探し」、「NETの自殺サイトで知り合い集まり決行する」ものなど。ただ似た傾向にあっても“観客を意識”した作品に力作が多くありました。 今年はかつてうえだ城下町映画祭自主制作映画コンテストで受賞された作家さんが映画界で活躍されたり、余所でも大きな賞を受賞されたり嬉しい報告が多数届いたことも審査員として私自身の参加する励みになっております。震災後は各地の映画館が閉鎖されるなど哀しい出来事もありましたが、こんなご時世だからこそ映画芸術は人々の希望になるはずだと信じ、作品を撮られる作家さんたちにもぜひ映画を作り続けて戴きたいです━━。
大賞「激情とビードロ」 監督:山田慧伍
審査員:大林千茱萸
機械的にストップではない「自力」なストップモーション+ゆっくりズームで登場人物を紹介する少女の声。そしてバスの中にぎっしり詰まった少女の「きらいきらいきらいきらい大っきらい!!!」な人たち。一瞬にして少女が対人恐怖症だと分かるオープニングからもうこの映画に引きずり込まれてしまった。すべてのキャラクターがデフォルメされているのに決して漫画的にはならず、ドラスティックにドラマの創造に反映されている。「絵」作りがとても強く、一度見たら忘れられない個性を発してる。多少カット繋ぎの荒いところはあるけれど、キャメラワークや色彩のコントロールが効いているから気にならない。物語の展開が「含み」のある構成なので観る者は「どこに連れてかれるんだろう?」と登場人物たちと一緒に映画の旅に出ることが出来る。あまりにも突飛で突然だけれど、子供時代の少女に好きだと告白したとたんに「消えろ」と言われ窓から飛び落ちたであろう少年との邂逅にもドキドキさせられる。制服ダンスのリリカルな変態性、ナルシズム、運動家の姉━━、腰の重くなりそうなモチーフを軽やかに扱う演出で、なによりもトラウマを"恨み"として描いていないその詩的な感覚が新鮮だ。そしてラストの大団円に向かい強烈にして猛烈なフラッシュバックから派生する少女の衝撃の魂の叫び、慟哭━━。過去の自分と対峙することでようやく心の解放を得た少女の見上げる空はきっと一生美しさを失わない気持ちの良い青空であるのだろうと思う。とてつもなく面白い、ものすごい22歳が現れた!
審査員:永井正夫
「自分と向き合う」というテーマを人嫌いな女・貴子を中心に描いている。貴子をめぐる人々のキャラクターがおもしろく描かれ興味深く見ることができた。ただ誇張の仕方が本質の拡大ではなく、ねじれて感じられる所もあり、もう少し素直に表現した方が主題が伝わるのではとも思われた。
審査員:古厩智之
「私は私が嫌い」こんな自己嫌悪の感情。誰もが持っているものなのに、それを面白いものとして描くのって本当に難しい。太宰治だって私は苦手ですね。思い当たる節があり過ぎるせいだろうか。自分の鏡像を見て楽しめる人って少ないと思うのです。
しかし大賞作品の「激情とビードロ」。これは楽しめました。主演の彼女が何より魅力的だ。どこがかというと・・・一生懸命なとこ。彼女は人の目も見られない、暗い、自信がなくて自分だけでなく他人も嫌いな典型的自己嫌悪人間。そんな彼女が何だか必死で変わろうとする。自分を好きになりたくて、しょーもない仕事に懸命に。そのことはやがて彼女の心と体を少しずつ変え・・・。
そこがよかった。知らず知らずの内に心身が変わって行く感覚。終わらない思春期の痛みを笑いと哀切と全部ごたまぜに(そのごたまぜが素晴らしい)描いた傑作だと思います。
(古厩智之)
大林千茱萸賞「CSL/タカボンとミミミ」 監督:酒井健宏
猫の足跡を辿り、猫の歩幅を計測し続ける青年タカボン。ゴミ捨て場に落ちているビデオテープを拾い、他人の「捨てられた想い出」を観ては不機嫌になったり哀しくなったりする猫顔の女ミミミ。一見交わるはずもない二人が偶然出逢ったのは小さな四つ角。タカボンはそこで大切な歩幅計測ノートを落としたことに気付かぬまま去り、ノートを拾ったミミミは風変わりなタカボンに興味を持つ。そしてノートを返すことから、ぎこちない二人の交流が始まる━━。 「CSL/タカボンとミミミ」はまず単純に、今年の応募作110本の中でいちばん風変わりな「創作のために作られた物語」であると感じられました。お伽噺的な内容だけれど実際になくもなさそうだけどやはりあり得ない物語。小説だと文学的に表現できるし漫画なら甘くなりすぎるところを“映画”で綴ることに上手く乗せてあったと思います。それはときに窓の外に映る猫の影があまりにもツクリモノの影絵であったり、水を踏んだ猫の足跡がイカニモきれいすぎて偽物だったり、嘘の部分は思い切り嘘として虚構に編み込んでいたことも上手く作用しているし、ときおり微妙な動きを見せるキャメラワークや編集のタイミングやリズムにも独特の間がありました。猫餌を持って海辺を歩くタカボンの不思議なモンタージュ感覚や、夜道を走るタカボンの編集も、直感的ではあるけれど個性を感じる映画的な演出で心を揺さぶられる場面です。場面の合間に挟まれるタカボンの妙な食事の仕方や、橋の上で妙に響く犬の鳴き声など、オリジナルなビート感も愉しめました。ときどきセリフが聞き取りにくかったので、整音に気を使うことと、少しずつ全体をブラッシュアップし、エピソードも増やして全体を1時間半くらいの小品にすれば、劇場で公開されていたら観に行きたいと思わせる小粋な映画になるのではないでしょうか。そもそも猫の歩幅を計る…というなんとも奇妙で、現実と妄想の狭間に存在するような物語を、空想力と演出力だけで描けているのは、ちゃんと映画の語り口のセンスを持っていなければ持続出来ません。ぜひ映画を作り続けて下さい。新作を愉しみにしております。ささやかな賞で大変恐縮ですが、改めておめでとうございます。(審査員:大林千茱萸)
永井正夫賞「美雪の風鈴」 監督:落合賢
現在という横軸の中でしか自分を考えていなかった美雪。新しい家族の中での位置も見失っていた美雪が、不発弾という戦争の忘れ物と出会うことで、縦軸の中の自分、祖母を含めた大きな意味での家族の中の自分を認識し、弟達への愛情にも目覚めたことが風鈴の音色に象徴的に描けていると思う。声高ではないが平和への思いが静かに伝わってくる作品だと感じた。(審査員:永井正夫)
古厩智之賞「ボーダー」 監督:鈴木祥
大賞作品もこの作品も共通しているのは、いま現在描くべきドラマ、この時代に扱うべきテーマと格闘しているといことです。
大賞作品は「終わらない思春期」を描きました。「ボーダー」がテーマに
しているのは「彼女の病気、それも精神の病い」です。両方とも実に個人的なもの。しかしどっちも当人にとっては大問題です。
タイトルにもなっている「境界性人格障害」がどんなものか劇中で明示されることはありません。ただ愛しい彼女が「理解不能」であることが描かれるだけです。主人公という彼氏がいるのにガンガン合コンに行ったり、無闇に泣いたり、理屈が全く通じなかったり…。
この分からないの彼女が時折無闇にかわいい顔を見せます。そのかわいさと彼の彼女に対する「理解」が全く繋がらないのがいい!
彼女はある時は闇そのものであり、ある時は光そのもの。彼はそんな理解不能な彼女に寄り添い続けることを選択します。そこが素晴らしい。
なぜって、やっぱり他人なんて結局絶対分からないものですもんね。愛が何かは分からずともそれに向かおうという彼の意思が美しいのです。
終盤、彼女が「私、病気なんだね。入院するよ」と彼の前から去る決意を表明する場面で泣いてしまいました。
美しい作品です。(審査員:古厩智之)