受賞作品紹介
平成25年6月15日(土)〜8月8日(木)に募集した、第11回自主制作映画コンテストには
ドラマ・ドキュメンタリーの80作品の応募がありました。
審査員と実行委員による予備審査が行われ、下記のとおり受賞作品が決まりました。
作品は上田市マルチメディア情報センターの映像ライブラリーに収蔵しています。無料でご覧いただけます。
大賞(2作品)
監督:金子雅和 作品名:「逢瀬」(36分)監督:佐近圭太郎 作品名:「家族の風景」(37分)
審査員賞
大林千茱萸賞 監督:原田真嗣 作品名:「ひだまりのこどもたち」(65分)
柘植靖司賞 監督:ふくだみゆき 作品名:「マシュマロ×ぺいん」(41分)
古厩智之賞 監督:高野充晃 作品名:「やさしい器」(35分)
作品紹介
審査員コメント
2013年コンテスト総評
審査員:大林千茱萸
本年度の応募総数80本。応募者の中には映像制作を職業とするプロフェッショナルも増えてきました。しかしながら多くの作品において、プロフェッショナルとアマチュアに差はあまり感じられませんでした。これはプロフェッショナルの質が落ちたのか、アマチュアの腕が上がったのか…。デジタル機材が身近になったことで、「失ったもの」と「得たもの」について深く考えるキッカケを戴きました。
うえだ城下町映画祭自主制作コンテストのルールは「15分以上無制限」と「1人1作品」。それ以外特に制限はないはずなのに、今年は“死んだらどこにゆく?”というテーマの多さが目立ちました。そして2011年からわずか2年で“311”を描く作品は減少。1本凄まじい映像の塊のようなドキュメンタリー(183分!!)がありましたが、どの賞の枠からもはみ出すエネルギーを捕らえることが出来ず断念。しかし2年の間に作家たちの心に“ナニか”が鬱屈し始めたのか、80本の応募作のうち、半分ほどの割合で登場人物たちが “叫ぶ”映画が多かった。けれど映画表現としての映像で、あるいはほとばしるような演出で“叫び”を描いた作品は少なかった。その反面、静かな怒り、憤り、不可抗力、やるせなさ、切なさといった細かい感情をうまくすくい上げ、コントロールすることで映画に収めている素晴らしい作品が多く寄せられた。
今回初のダブル受賞となった大賞作品の、金子雅和監督『逢瀬』と佐近圭太郎監督『家族の風景』はまさにその代表のような2作品。そして見事にふたりとも映画作りの方向性が違う。金子監督の作風は当初から一貫したロケーションへのこだわり、きっちり計算された画面作り、現代にひっそりと息づく不思議な物語を追うエンターテインメント。一方、佐近監督の『家族の風景』は、奇をてらうことはいっさいせずに堂々と、律儀なほどクラシックに人間ドラマを紡ぐ。佐近監督は22歳が進化していることを感じさせる逸材。彼のような映画作家が増えると将来の日本映画界が豊かになるのではないか。
ダブル受賞として賞を半分ずつ分けるに至ったのは、両監督の中に潜むモチベーションに深さを感じたため。彼らの作品からは「もっとスゴイモノを撮れる」という強い意志があふれ出ていた。ゆえの賞の“はんぶんこ”。いまから次回作が愉しみな両監督である。
今年はダブル大賞を含め、審査員賞、そして映画祭終了時に集った作家さんたち全員から圧倒される熱量を感じた。自主制作映画コンテストも11回目を迎え、素晴らしい作品が集まり、作家さん同士が出逢う場としても動き出したように思う。日本各地に映画祭はたくさんあるが、上田市のように映画人の育成に力を入れ、中編・長編を受け付ける映画祭は少ない。映画祭は応募される作品によって流れが変わる。今年は作家も審査員も映画祭も、良いバランスで刺激しあえたのではないか。まずは応募して下さった作家さんたちに感謝とおめでとうございますを。そして「上映」という出口を作って下さる映画祭スタッフに感謝とおつかれさまでしたを!
審査員:柘植靖司
どの作品もレベルが高いことに驚きました。
引きこもりや、人と人の触れあいを求める作品が多いのは、2013年の日本の世相を反映しているものだろうと、とても興味深く感じましたが、何か突き抜けたような、びっくりさせられるような作品(作家の狂気とか、奇抜な発想とか)と出会えなかったのは少し残念でした。撮影機器の手軽さもあり、また映像を身近で見たり、撮ったりという機会が日常茶飯事の中で生活している皆さんの作品は、見る者を構えさせるようなところがなく、とてもリラックスして拝見できました。しかし一方で残念なことは、多くの作品が大きなスクリーンで鑑賞されるということを前提としていないように感じられました。
こうした地方都市での映画コンテストの存在、発表の場は作り手にとって、大きな励みになっていることでしょう。80本という応募作品数は私にとって驚きでした。今後の益々のご発展をお祈りします。
審査員:古厩智之
なんて!引き蘢りが多い年だろうな、と思います。あとはほとんど監督が男(予選通過作で女性監督は一本だけ)。その結果、描かれる女性はアイドルや、レイプされたり、ひどいブスに描かれたり…「関係を持てないもの」として描かれてることが気になりました。
コミュニケーション不全を訴えるそういった作品群の中で、『やさしい器』『家族の風景』だけが愛というものについて歌っていたように思いました。愛するもの、愛さざるをえないもの。そんなことはおくびにも出せないけれど自分の大切な人たち…。
『みるひと』は愛まで行けない自己愛すら持てないさらに手前で、自分のリアルと格闘していることに好感を持ちました。
大賞「逢瀬」監督:金子雅和
審査員:柘植靖司
構図、照明、美術、編集等 プロの仕事と感心しました。
大きなスクリーンで鑑賞できる、まさに映画としての構えを持った映像作品だと思います。
しかし、いま少し、脚本と構成、登場人物の掘り下げが必要かとも感じました。
妹が不思議な青年に魅了されていくわけですが、彼女をもう少し描けば、もっと不可解感が出せたのかなと思います。
ラストのイノシシの骸骨と同じ形体の大岩が崩れていくのは圧巻ですが、意地悪な見方をすると、「ああ、このカットをやりたかったのかな…」と思わせてしまいます。もう少し、「神隠し」の奥にある何かを埋め込む必要があるのではないでしょうか。
大賞「家族の風景」監督:佐近圭太郎
審査員:柘植靖司
極めて等身大の、好感の持てる作品でした。作家が何を描きたいかということが、よく伝わってきます。登場人物の役割のバランスもよく、安心して見られました。主人公に感情移入出来て見られたのは、主役の男の子の存在感が大きく貢献していると思います。映像的技術、演出力をどうこう言う前に、22歳のこの作家が心から表現したいことがそのまま映像に出ていると感じ、それこそが表現者が原点に持たなければならないことと教えてくれました。
幾つかのセリフ、しぐさにその登場人物のキャラクターを深く洞察していない部分を感じましたが、この作家の将来を期待させました。
大林千茱萸賞「ひだまりのこどもたち」監督:原田真嗣
審査員:大林千茱萸
オープニングのショットから引き込まれました、“映画が始まる”予感がして。そしてその予感は最期まで裏切られることはありませんでした。リズムやテンポの良さ、アングルの攻め方と収め方、どこに重点をおいてどこを省略するかのバランス感覚。映画を見詰めることで、監督が“何”を描きたいかという意志がしっかりと浮かび上がり、伝わる、伝えることの巧さ。細かいことを記せば、主人公の背景が分かってから一度失速するのですが、そのあとの持ち直し、立て直しに力があり、結果、それがドラマを上手く揺さぶる効果に繋がった。
なにしろ登場人物たちが全員いい。表情、表情の影、身体の使い方、動き、佇まい、台詞まわしで彼らの背景・生態系までもがくっきりとわかる。今回の全応募作の中で、いちばん記憶に残る登場人物たちでした。ことにドキドキさせられたのは、男の子ふたりと暮らす女の子の関係性。それは「男2vs女1」ではなく、無邪気な子どもがオヤツを分け合うような、きっちり「3等分」の関係。やまだないとの漫画のような。コミューンのような。自由で自立した関係がさびしさで繋がっているような…。そして、ひだまりのような“正”の三角形の両脇に、心に“負”を抱える青年ふたりがいるバランスが見事だった。
実は、映画を観終わった今でも、彼らは私の中に活きています。優秀な作品はたくさんあるけれど「観た人の中でその映画が育つ」ことは、ある意味映画の理想ではないか。そして人はそこに“希望”を感じるのではないだろうか。
主人公が起こした過去は、不可抗力ながら取り返しのつかないこと。一生をかけても許されないことがあり、許せないことがある。けれど……の、“先”を描く物語。『ひだまりのこどもたち』はそんな作品でした。次回作がとても愉しみです。おめでとうございます。
柘植靖司賞「マシュマロ×ぺいん」監督:ふくだみゆき
審査員:柘植靖司
初監督作品とは思わせない作品度でした。コミカルなコミックスのコマの登場人物がそのまま動き出したような軽快感がありました。また、女性監督ならではの細かい演出が楽しませてくれました。喜劇に属する作品でしょうが、喜劇は綿密な計算と演出が要求されると思いますが、折角のアイディアが活かせきれていない残念なシーンやカットが幾つかありました。。しかしながら、この作家の持つ感性はなかなか得難いものと感じ、プロデューサーとして一度仕事をオファーしてみたいという誘惑(?)に駆られる作品でした。古厩智之賞「やさしい器」監督:高野充晃
引き蘢りの兄と弟。 お兄ちゃんはもの凄くいい顔だ!引き蘢ってるわりに食事作ったり、よく働いている。「親子丼かよ!」「焼うどんかよ!」というところオカシい。 しかし全ての人間に愛がある。 お兄ちゃんが朝、家を出るところの張りつめた空気。 キツかった彼女がフッと優しい顔に変わる。人間は流れるもので、流れるからこそ美しい。それがよく分かる。 マイク・リーのようだった。ドライに見つめつつ愛がある。素晴らしかった。互いを思いやってるが、決して表立たない空気。それ優しい。