■受賞作品動画配信
受賞作品の「透視せよ!タケオ」と「△サンカク」を動画でご覧になれます(平成21年3月31日まで)。※終了しました。
また全受賞作品を上田市マルチメディア情報センター映像ライブラリーで鑑賞できます。

受賞作品紹介・審査員のコメント

大賞
「幸せなら手をつなごう」
(60分)
監督:日原進太郎
大賞「幸せなら手をつなごう」

<あらすじ>カルト宗教団体の教祖に祀り上げられた男、関。そんな悩める関が、ある日教団の金を持ち逃げし失踪する。同乗者には、関を教祖と崇める教団の信者・野見。2人の思惑を乗せた1台の車は、宛もなく走りつづける。
<応募作品についてのメッセージ>普段、僕たちは何気なく一日一日を過ごしている訳ですけど、一体そのベクトルはどこに向かっているのかと考えた時に、きっとそれは「幸せ」という漠然としたモノであるはずです。人は「幸せ」を掴み取るために生きている。しかし、「幸せ」って一体何なんでしょうか。それはきっと、決して分かり得ないことなのかもしれません。 

大林千茱萸賞
「透視せよ!タケオ」(29分)
監督:佐藤広一
大林賞「透視せよ!タケオ」

<あらすじ>25歳で引きこもりのタケオ。ある日、タケオは通信販売で超能力カセットを購入し、それによって人の心を読むチカラを身につけ、女の子の心を読むため街に繰り出すのであった!
<応募作品についてのメッセージ>主人公の青年、タケオは仕事もせず、親兄弟からも心配されているものの、しかし自分ではどうすることもできずにいる一人です。引きこもりやニートが主題となる物語は、一般的には重く暗くなりがちですが、本作品はそれとは真逆のとらえ方をした作品といえると思います

永井正夫賞
「room」(17分)
監督:小野寺昭憲

永井賞「room」

<あらすじ>17分間セリフなしで描く真実の愛の物語。半年前に離婚を経験し失意のどん底にいた宮田と、仕事に追われ本当の恋に出逢えぬまま日々鬱々とした思いを抱いて生きてきた由紀恵は、或る夜バーで運命的な出会いを果たす。
<応募作品についてのメッセージ>誰しもの人生にドラマがあります。本作は、どこにでもいるような或る恋人同士の出会いを、本人達を主演に迎え、真実に基づき、セリフなしで映像の力だけで描こうと試みたものです。この撮影から2ヶ月後に結婚した彼ら二人の人生に幸あらんことを。

古厩智之賞
「△サンカク」(25分)
監督 :渡辺一樹
古厩賞「△サンカク」

<あらすじ>恋人タクの部屋を訪れた彼女は、そこにあったギターを手に取った。だが、それは、突然部屋に入ってきた妙な男に奪われてしまった。男を追いかけて着いた先は、スカーレットベリーという店。そしてそこへ更にふたりを追いかけてきたのは・・・。
<応募作品についてのメッセージ>私のこと愛してた?


■審査員のコメント

コンテスト総評
大林千茱萸審査員
  届いた応募作品を観るのは審査員の醍醐味なのですが、今年の傾向は「多様性」でした。これまでは毎回「テーマ」を決めていないにもかかわらず、なぜか同じテーマが重なることが多くありました。ところが今年は幅広く異なるテーマを描いた作品が多く、バラエティに富んでいました。これもひとえにビデオ機材の普及率が上がり、映像人口が増えたことの現れだと思われます。そしてその作品ひとつひとつの完成度の高さにも驚かされました。それは例えば今日の夜テレビで放映していてもきっと違和感がないほどの質の高さでした。今後もプロフェッショナルとアマチュアの境界線は年々曖昧になって行くことでしょう。あるいは、「映画愛」にのみ突き動かされて作品にしてしまったような、荒削りだけれども勢いと「映画を創りたい!」という気持ちがガツンと伝わってくるような、思わず愛しくて頬ずりしたいような作品も幾つかありました。しかし━━、“映画”とは、物語をただ追いかけ綴っただけでは映画になりません。それでは単なる「映像の羅列」です。では“映画”はどこに存在するのか。常にソレを追い求め続ける意志と覚悟と責任のある人が映画監督という職業なのではないでしょうか。自主制作映画コンテストなので、映画を職業にする人もしない人も居られることでしょう。けれどどうか“自分の映画”を見付けられたと思えたなら、ぜひ、作品を応募なさってみて下さい。そして来年、映画を通してお逢いできるのを楽しみにしております。応募頂いた皆様には、心から「お疲れ様」と「ありがとうございます」を…。

永井正夫審査員
 自主制作の枠を超えた作品が何本かあり、どこで墨分けをするのか難しいものがあります。
更に多くの方たちの応募を期待しております。

古厩智之審査員
長いものが多いせいか薄味に感じました。
「私はこの物語を語らねばいられない!」と身悶えするようなものを見たいと思います。

大賞受賞作品「幸せなら手をつなごう」について
大林千茱萸審査員
 日原進太郎監督が帰って来た! 長編を引っさげて帰って来た!! これを「お帰りなさい」と言わずしてなんと言おう━━。
 あれは2005年の第三回自主制作映画コンテストのこと。日原監督は『パリレリーナの穴』という実に珍妙にして気の利いた、妄想的小咄ファンタジーで審査員(大林千茱萸)賞を受賞。その作風にはとても独創的な“間”があり、それは近年加速する世知辛い世の中へのアンチテーゼとも取れるほど魅力的である。『パリレリーナの穴』は19分という短い作品だったが次回作を早く観たいと思わせ、同時に、彼はきっと「映画を撮り続けてくれる監督」であると信じられる、将来が待ち遠しい監督であった。そして前作から3年、日原監督は帰って来た。新作『幸せなら手をつなごう』は60分。前作の約3倍という持ち時間に成長して帰って来た。しかも作家としての覚悟を感じる16oフィルムで撮影されている。
 『幸せなら手をつなごう』は、「幸せ」という確かであり不確かでもある普遍的な大命題に挑んだ作品だ。紛れもなく現代のこのニッポン国で撮影されているにもかかわらず、切り撮られる画はどこか北欧っぽい色彩を放っていて、画面には物語とは別のところで常に「気配」や「予感」が漂っている。その不確定さが切なさや儚さを醸造し、夢かうつつかという感覚が物語を引っ張って行く。
 いくつかの場面で主人公たちが右から左へ、左から右へと画面を横断する画面作りのセンスや、車が故障して森の中を延々と歩くときに流れる音楽の詩情感。あるいは田んぼに止められた車を遠景で映し、主人公たちが車内で「幸せ」について語りつつ夜明けが訪れる場面など、確実に日原進太郎という作家の世界観がある。こういったセンスは一瞬の感覚ではなく、演出家としての才能の一部である。
 冒頭で「お帰りなさい」と記したが、帰って来たのは日原監督だけではないし、帰って来たからの大賞というわけでは決してない。実は日原監督の他にも過去に応募して下さった3名の監督(1名は審査員賞受賞者)からも新作の応募があった。であるからこそ、日原監督にはコンテストの頂点である大賞を獲った今後、よりいっそうの覚悟をもって映画作りを続けて欲しいと願う。現在の日本映画界はプロフェッショナルとアマチュアの隔てなく厳しい状況ではあるが、だからこそ踏ん張り、継続することの力を求めたい。

永井正夫審査員
 シニカルな社会風刺の中に描かれる二人の旅の果てに幸せは見えたのでしょうか。本人達にも観客にもその実像はわからないのでしょう。難しいテーマをさりげないストーリーの中に描出できていると思います。但し音(音量、統一性)に難がありましたので、その面でもっと努力が欲しい作品です。

古厩智之審査員
 教団を逃げ出した教祖と彼を崇める信者の金を盗んだ逃避行・・といっても、どうにものんびりした旅行。
教祖さまはダメダメで世俗な欲求の固まり。そこがいい。うまいものを 食べ、女を呼び、野球に混じり・・。
ただのおっさんが子供っぽい欲求をただただ追求する様子が、段々逞しく見えて来る。
男二人の道行きって「目的がない」のがキモなんだなあ・・。
久々に「ロードムービー」を見ました。

大林千茱萸賞「透視せよ!タケオ」について
大林千茱萸審査員
 主人公は25歳の引きこもり男子タケオ━━なのだが、心の中では「映画監督になりたい」という野望のマグマが煮えたぎっている。しかし彼自身の現状はどうにも煮え切らない。そんな彼が「通販」で特殊な能力を手に入れたことから物語は意外な方向に転がり始める。
 佐藤広一監督による演出は、映画全体を包むリズムが秀逸だ。ナレーションとストップモーションを上手く組み合わせることで、“躍動的な引きこもり”という異色なニート像を見事に浮かび上がらせる。主人公が常にボーダー柄のシャツを着用していることや、タケオが観る数々の映画(『どですかどん』『生きぬ』)を作り直す手間を惜しまない姿勢は、映画のトーンを左右する上で大事な「隙間のこだわり感」にキチンと作用している。異色な人物タケオを取り囲む大人たちの異様なバランス感覚が面白く、それでいてさり気なく挿入される電線や街の情景が美しい。特殊能力を手に入れたタケオが「憎しみ」の感情に対面したときよりも、「愛」を押し売りされることの方に戸惑うというアプローチも切ない。そして何よりも「みんな、とてもびっくりした」という台詞で締め括られる衝撃的なラストの開放感!!!心をざわめかせてくれる映像感覚に打ちのめされた。
 30歳にして60本以上の監督作品があるという佐藤広一監督のモットーは「量を突破口に質を攻めろ!」だと言う。今後もよりオリジナルに昇華すべく質を極め、見極め、ギリギリのところまで攻め込んで欲しいと願って止まない。

永井正夫賞「room」について
永井正夫審査員
 男女二人の感情の機微をセリフをナシという設定に追い込むことにより、映像表現に音楽、効果音が通常の表現枠を超えた世界を見事に作り上げた作品です。
 喜しくも今年、新藤さんの「裸の島」の上映があるということで、なにかの因縁かという思いもしました。

古厩智之賞「△サンカク」について

古厩智之審査員
監督の渡邊さんは本当にリリカルだと思う。ただそれを物凄く照れてもいて。
恥ずかしくてしゃーない、だけど好きだどうでもいいだろう!というような照れと開き直りが絶妙なブレンドでスクリーンを満たしていて、見てるこちらはそこにしびれる。
爆音ロックを聞いているつもりでいると、気付かぬうちに物凄く繊細で詩的な時間が訪れる。
終盤のある奇跡のシーン、そこもぶっきらぼうさと優しさが渦巻きのように混ぜ合わされていて。
たまらない。