うえだ城下町映画祭第七回自主制作映画コンテスト 審査結果

平成21年6月15日(日)〜8月21日(金)に募集した、第七回自主制作映画コンテスト。
ドラマ・ドキュメンタリー・アニメーションの114作品の応募がありました。
8月下旬から、審査員と実行委員による予備審査が行われ、その後、審査員による本審査が行われました。 その結果、下記のとおり受賞作品がきまりました。
なお、コンテストの受賞作品は上田市マルチメディア情報センター映像ライブラリーに収蔵してあり、無料で視聴できます。※制作者の都合により収蔵していない作品もあります。

受賞作品

大賞

監督:鈴木 健 作品名:「東京」(60分)

審査員賞

大林千茱萸賞 監督:金子 雅和 作品名:「鏡の娘」(18分)
永井正夫賞 監督:一ノ瀬 輝  作品名:「高橋宗太郎と雨の殺人事件」(40分)
古厩智之賞 監督:頃安 祐良  作品名:「シュナイダー」(44分)

表彰式・受賞作品の上映

受賞作品は上田市マルチメディア情報センター映像ライブラリーで視聴できます ※制作者の都合により収蔵していない作品もあります。

受賞作品紹介

大賞

「東京」

監督:鈴木 健 (60分) 「東京」
<あらすじ>東京で両親と暮らす大学生。彼はただ悶々と毎日を消化していた。7歳の息子と 親権を持つ元夫と9ヶ月ぶりに再開しに上京する中年女性。妻と娘との別居中の中年男性。東京で過ごす他人の事情と出会いを通して家族の姿に迫る。
<応募作品についてのメッセージ>ロケ地20ヶ所以上、役者25名以上と学生映画にしては大きい規模。何を、どのように語るのか、という点で私の迷い、 未熟さが露呈している今作には悔しい思いが沢山ある。しかし、多くの方々の力添えの結晶という点では誇りにさえ思う。あらゆる意味で一生忘れない作品です。
<監督自己アピール>幼い頃から映画が好きで、以来、大学や職業など映像に重きを置きつつ人生を学んでおります。
審査員賞(大林千茱萸賞)

「鏡の娘」

監督:金子 雅和 (18分) 「鏡の娘」
<あらすじ>未亡人・千鶴子には娘がいるはずだが、13年間その姿を見た者はいない。戸籍調査に訪れた守屋が、千鶴子の家で見たものは・・・。
<応募作品についてのメッセージ>グリム童話「ラプンツェル」に材を得た、美しい黒髪をめぐる母娘の物語。
<監督自己アピール>初の長編映画「すみれ人形」がうえだ城下町映画祭で審査員賞を受賞(07年)。08年劇場公開される。現在、TVやWEB等の映像 制作に携わりながら、新作を準備中。
審査員賞(永井正夫賞)

「高橋宗太郎と雨の殺人事件」

監督:一ノ瀬 輝(40分) 「高橋宗太郎と雨の殺人事件」
<あらすじ>新米刑事・有田は殺人事件の謎を追う。人形アニメーション。
<応募作品についてのメッセージ> 高橋宗太郎シリーズ第2弾です。真面目な人が最後は勝つけれど、勝ったからといって幸せとは限らないと思って作りました。
<監督自己アピール>アニメーションを中心に、様々な映像、演劇などを制作しています。
審査員賞(古厩智之賞)

「シュナイダー」

監督:頃安 祐良 (44分) 「シュナイダー」

<あらすじ>人々は光よりも闇を愛した・・・。田舎のレストラン。お店のうしろには自殺の名所と言われる森。そのレストランを営む佐伯の夫、 洋一は2週間前から行方不明になっていた・・・。
<応募作品についてのメッセージ>人の心の深い部分をえぐる作品です。
<監督自己アピール>コンスタントに映画を作っています。

審査員コメント

大賞「東京」

一枚の写真に写るアルバイト学生、主婦、中年男の三人が東京という社会の中で、悩み生きる模様が見事に映画作法にのっとって シナリオ化されていて、文句のつけようのない作品です。
(永井正夫)

大林千茱萸賞「鏡の娘」

正直、激しく悩みました。結果、覚悟を決めました。
 振り返れば金子雅和監督の作品に初めて出逢ったのが2007年。『すみれ人形』という作品です。それは応募作の中でもひときわ異彩を放ち、類い希なるオリジナルの資質を持っていると確信させられたこともあり、審査員賞を授賞しました。
 それから2年。今年は応募作も前例にないほど多く、全体的な映像のクオリティも高いものでした。とすれば当然、審査員をお引き受けする姿勢として、チャンスは出来るだけ多くの作家さんに贈りたいという気持ちがあります。実際、今年初めて応募されたとある作家さんの、荒削りではあるけれどダイナミックな演出力に惹かれ、そちらを審査員賞に…とも考えました。考えました━━が、もし過去に『すみれ人形』を観ていなかったら、もし過去に金子監督が同賞を授賞していなかったのなら、間違いなく『鏡の娘』を選んでいただろうと思い、改めて「1本の作品と向き合う」という意味で最終的に『鏡の娘』に致しました。
 嬉しいことに、金子雅和監督はこの2年の間にTVやWEB等の映像制作に携わりながら、常に新作を作り続けておられ、『鏡の娘』は確実に前作よりスマートでシャープになっており、完成度の高い作品でした。画面に納めたい“モノ”たちはきちんと演出によって管理され、内容も静かなさざ波のようでありながら、次第に心の奥底に眠るひずみや深淵が浮かび上がります。さらに、一見クラシックな作りであるようでいて、実はとても現代的な、“今”の映画になっています。世界観、空気感、色彩のすべてが確固たる演出力で統一されていると思いました。
 具体的には、タイトルバックになっている刷りガラスが、実は次第に明らかになる重要なモチーフであったり、美しく長い髪が実は!という展開と衝撃。逆転する母娘関係。そしてやがて訪れる平穏という不気味な関係などなど…。18分という上映時間の中には想像以上の物語が閉じこめられており、その奥深さには普遍的な無限さも感じられます。そのような事柄のすべてを鑑みても、金子監督の作品は常に私の「新作が待ち遠しい作家」リストに入っています。
 映画を作り続けることが難しくなる一方の日本です。作家の意志を込めた映画(映像)を作り続けるには困難なことも多いですし、今後プロフェッショナルとして映像でお金を戴くには不可抗力で断念せざるを得ないことも多々あると思います。けれど、作り続けていることの強さは確実に作品に出ると信じます。私のような者が言うのもおこがましいのですが、どうか作り続けることの意義を誇りにして下さい。
受賞おめでとうございます! (大林千茱萸)

永井正夫賞「高橋宗太郎と雨の殺人事件」

人形アニメーションとして作る中でエンターテイメントに裏付けされ、まず第一にシナリオ構成がしっかりできていて、 探偵物のおもしろさが如実に描写されています。しかも、40分という製作に耐え、その長さに十分こたえられる作品に 成ったと思います。続編に期待します。(永井正夫)

古厩智之賞「シュナイダー」

面白い!ハラハラしました。
行方不明の夫に心を囚われた女。彼女にケガをさせシモベになってしまった男。幼児をいたずらして殺し、それを悔いても償い方が全く分からない男。復讐心だけに囚われたその子の父親…。
中心の4人がどこに進むのか全く予測出来ない。どこにも行き場を見つけられず、同じところをぐるぐる回るだけ。ただ心だけが行き場を求めて暴走し各々の問題にひたすら拘泥して行く。その様子が面白い。
女は自分をケガさせた男をひたすらいじめる。加害者はそれに応えてどんどん奴隷になる。幼児の父親は復讐だけを叫び、いたずら男は謝り方など勿論わからずひたすら空っぽになって行く。
人間というのはここまで「ただひとつの顔」を出来るのか。いじめそのもの、復讐そのものの顔にどんどん変化して行く人間たち。その人間たちが出会ったときに…。大方の予想を裏切って、ある人物が生き残る。
「ああ!」と納得するのは、その人物が自分の中心を著しく欠いてしまっている事実にだ。自分の強い感情にとらわれた者はみな滅んでしまう。生き残るのは空っぽになった人間だけ…。
これは恐ろしい人生の真実かもしれない。何も持たない者がいちばん強い。その虚しさとある爽快さ…。それは「映画」というメディアが要求する勝利の法則でもある。映画に写る人間は、その外側は見えるけれども内側は絶対に写らない。デク人形のような奴ほど軽やかですばしこく、生き生きとしている。それこそが映画的なのだ。空っぽな奴がいちばんエラい。
その真実を重く、軽く、マジメに、フザけてエンターテイメントした『シュナイダー』を熱く支持します。 監督がいろんなジャンルでこの視線を持ち続けて映画を量産してくれたら…。楽しみです!
(古厩智之)