結果
賞 | 作品名・内容 | 監督名 |
---|---|---|
大賞 | 『オキシトシン』 | 前田航希 |
審査員賞 大林千茱萸賞 |
『松坂さん』 | 畔柳太陽 |
審査員 大槻貴宏賞 |
『噛む家族』 | 馬淵ありさ |
審査員 古厩智之賞 |
『雨花蓮歌』 | 朴 正一 |
実行委員会特別賞 | 『嬉々な生活』 | 谷口慈彦 |
作品名 | 監督名 |
---|---|
『還ら去る君へ』 | 飯野 歩 |
『書けないんじゃない、書かないんだ』 | 鴨井奨平 |
『大食い大好き大石さん』 | 田中亮丞 |
『隣のサンズイ』 | 道川内 蒼 |
『うそつき』 | 田村愛理 |
『scenario』 | 三浦和徳 |
『Living』 | 田中 夢 |
『シェアハウス芽吹荘の夏』 | なかね ひろみ |
『鳥の目』 | 山田 香 |
『僕の名前はルシアン』 | 大山千賀子 |
審査員コメント
大賞「オキシトシン」 前田航希監督
優しい人が集まっている映画でした。他者の考え方や生き方をちゃんと尊重する人たちで作られている世界、誰かの一見優しそうなアドバイス通りにしなくていいんだと安心できる世界が映っていました。そしてそれは、映画の中だけではなく、映画作り自体も同じなんだろうなと感じられました。
内面的なものの表現を「接触恐怖症」というものに託したのがある種画期的だと思いました。ラストシーンは審査員によって解釈が分かれましたが、その上でほぼ満場一致でグランプリに決まりました。(大槻貴宏)
大林千茱萸賞「松坂さん」 畔柳太陽監督
夜。人気のない学校のグラウンドでトンボをかける女性。遠くに行き交う電車や車。夜の光が妙にきらめいていて、物語の先にナニかを予感させるには充分なオープニングに引き込まれ――今回拝見した応募作の中でいちばん静かな、でもとても人生の青さと苦さと、いつかたどり着けるかも知れない希望と光を予見させる青春映画でした。
とても狭く、小さな世界の物語ですが、物語がもどかしさを抱えつつ転がり始める中で、実態を捕らえることの出来なかった「トンボ」が意図すること、主人公がバイト先で出逢う松坂さんとの関わりにより、自分がやり方を間違えていることに気付いてゆきます。
「あなたのことを知りたい/自分のことを知ってほしい」――これは恋愛のはじめの一歩。主人公の勝手な思い込みに巻き込まれてゆく松坂さんですが、松坂さんの困った顔が良かった。困った顔から始まる未来もあると予感させます。お互いが39分の間にきちんと成長したことがわかります。映画が終わっても、物語の「その先」の気配が観客に残ります。
要所要所、細かくト書きを映像化して作品に積むことが映画を豊かにすることに一役買っていますし、全体が不思議なトーンと気配に包まれていて、その静けさの中にしっかりと作家が潜んでいると感じました。
今年はマヒトゥ・ザ・ピーポー初監督・脚本を手がけた『i ai』、空音央監督『HAPPYEND』など、個人的に新しい青春映画の幕開けだと感じていますが、『松坂さん』は――もちろんいろんな条件や技術的なことを含めまだまだ幼い映画作りで、出来ることもやることも山ほどある作品ではありますが、前作の『キックボード』を拝見してから本作を観ると、畔柳太陽監督にはまだまだ撮りたいものがあるだろうと確信するので、ぜひ、次作も観たいという期待と願いを込めて、僭越ながら大林千茱萸賞とさせて戴きました。おめでとうございます。撮り続けて下さい。(大林千茱萸)
大槻貴宏賞「噛む家族」 馬淵ありさ監督
前作『ホモ・アミ―クス』から一貫して社会問題を取り入れたエンタメを作っている馬渕さんの新作ということで楽しみに観ました。期待通りの作品で、SNSの恐怖はもちろん、世界的な移民難民問題までも言及出来る作品だったと思います。
映画の中の世界の設定をもっと明確に見たかった気持ちはありましたが、途中からそれも気にならないスピードであっという間の50分でした。(大槻貴宏)
古厩智之賞「雨花蓮歌」 朴正一監督
在日コリアンの家族を描く本作。とにかく俳優さんたちが生き生きしている!元気で表情がクルクル変わる妹。不安と意思の強さと恋する女性の顔を行き来するお姉ちゃん。ゼロ距離で隣にいる妹の友だち。姉によるべなくも寄り添おうとする日本人の彼氏。石のように地面に足をつけて生きてきたことが伺えるお母さん。絶妙な「叔父さんポジション」の叔父さん。おばちゃん力爆発のおばちゃん。…。誰もが本当にこの世界に生きている人たちに見える。これってとてもすごいことで、俳優さんたちの理解と努力、それを促した監督の力量に驚きました。
登場人物同士の距離感もすばらしい。ゼロ距離の友だちはここぞの時に、すんなり妹が在日であることを受け入れる。お姉ちゃんは苦しい胸の内を叫ぶけど、家族から離れたりせず関係性の中にとどまる。お姉ちゃんの日本人の彼氏に対する妹の節度ある距離感…。どの登場人物も過度に距離を縮めたり離れたりせず、そこに留まり強度を上げる。自身も在日コリアンとして生きてきた監督の実感だろうか。決して声高にならない、しかし強さがある生き方を感じました。(古厩智之)
実行委員会特別賞「嬉々な生活」 谷口慈彦監督
「嬉々な生活」は、極めて「今」の若者、子供たちの物語であると思いました。若い人たちを取り巻くものが、この作品で描かれたことばかりではもちろんありませんが、彼らが置かれている現在という世界を主人公やその友人に投影することによってそれを浮かび上がらせています。主人公の嬉々は、ヤングケアラーであり、下手をすると闇バイトに引き込まれかねない苦しい生活であり、その友人もまた、といった状況下にあります。
また、彼らを取り巻く大人たちの置かれている現代社会の病理みたいなものも描かれて、作品に深みを与えていると思います。映画やドラマによっては、もっと過激な表現でそういった問題を描く方法もあるでしょうが、この作品では、大げさだったり過激な描写に走らずに心の痛みを十分に浮かび上がらせていました。
主人公から小さな子供達も非常に自然な演技で、最近の子供たちはすごいなあとこの作品ばかりでなく感じることが多いです。もちろん、彼らを取り巻く大人たちも良かったです。
主人公たちを取り巻く辛さは、最後まで続いていきますが、主人公が陰々滅々と生きているわけでもなく、その中でも少しずつ救いがあって、明日には何か希望があるのかも、という展開も見ていて救われる感じでした。
ラストの描き方もいいです。見終わって、ホッとするものが残る作品でした。(実行委員会副実行委員長 角田千宏)