うえだ城下町映画祭
第23回自主制作映画コンテスト

結果

今回も多くの皆様に作品をお寄せいただき、ありがとうございました。
過去最多の156作品の応募があり、審査員3名(大林千茱萸さん、大槻貴宏さん、古厩智之監督)の審査により、ノミネート17作品とその中から大賞・各審査員賞が決まりました。また、実行委員会のメンバーが選ぶ実行委員会特別賞も1作品決まりました。

受賞作品 2025/11/23発表
作品名・内容 監督名
大賞 『それで十分』 鈴木涼馬
審査員賞(大林千茱萸賞) 『キッチンオブドラゴン 風の天龍炒飯』 鬼村悠希
審査員賞(大槻貴宏賞) 『あわい』 佐飛実弥
審査員賞(古厩智之賞) 『サンタクロースたちの休暇』 澁谷桂一
実行委員会特別賞 『生きているんだ友達なんだ』 上野詩織
ノミネート作品 2025/10/17発表
作品名・内容 監督名
『夢と進路』 前田聖来
『お笑えない芸人』 西田祐香
『スフマートだ、ぼくら』 森 拓人
『ワンダリング・メモリア』 金内健樹
『たべるってなに?』 白田一生
『コードネーム』 岩坂 桂
『地球の3匹の記録』 髙橋 佑
『輪郭』 初見弘貴
『平日』 久世英之
『おかえり ただいま』 山口真凜
『夜をぬけて』 安井 彬
『渡り鳥も聴こえる』 寺尾都麦
『接着』 河野史弥

審査員コメント

大賞『それで十分』

彼がいなくなった部屋。窓の外では雪が降り、無意味な食事が何日も続き、また雪が降る…。
あの窓。窓の前で続かざるをえない残された者の「生活」。同ポシジョンで描かれる窓向けのあのショットの連続に、不在が、孤独が、強烈にみなぎっている。あのショットの連続のあいだに思い出す。彼とのなんてことない会話、食べた料理、胸に残る彼が残した言葉…。愛しい人を不意になくしたらこんな具合なのか。胸が締め付けられ、自分を満たす空虚に呆然とする。
「喪失」を見事に絵に、時間に、お芝居に、定着させている。
だからこそ、終盤、彼が踏み出す一歩には、遠くに彼の再生も見えて、感動した。
(古厩智之)

審査員賞(大林千茱萸賞)『キッチンオブドラゴン 風の天龍炒飯』

13年前のある日、町一番の中華料理屋を営んでいた父が道場破りと料理対決の末、敗北。傍らで震えていた息子は復讐を誓い――!? 映画をはじめ演劇、小説、おそらくこれまで古今東西、幾度となく繰り返されてきたであろう復讐劇のセオリー。ただ本作の大きなポイントは、題材が“料理”であること。ゆえに、巷の復讐劇のようにやたら“人が死なない”。おかげで終始一貫、良質な娯楽として楽しませてくれる。
声を大にしていいたいのは、本作は、全編を通してやたらとエモーショナルに燃えている(料理映画だからという意味も多少ある・笑)、の、だが、その燃えたぎり感が、終始堂々“真面目”なんである。この“真面目”の積み重ねこそが、本作を本気のエンターテインメントに仕上げている、これはとても大切な資質。“本気”と“真面目”は自主映画に不可欠な初期衝動。Don't think. Feel.――本作を観ながらブルース・リーの言葉を思い出していた。
1980年代ゴールデン・ハーベスト黄金期の香港映画を匂わせながらも単なるパロディに転ぶことなく、テイストと技術はしっかり2020年代。全編にわたり漲る力強いキャッチは、観客の不意を突くために計算されたテンポを上手く織り交ぜながら、器用な演出でリスクの壁を軽く超えるというしたたかさと逞しさが感じられた。
実は、こういうコメディ要素が強い娯楽がいちばん賞の対象になりにくい。それはたとえば、2023年アカデミー賞における『Everything Everywhere All at Once』最多7部門受賞は事件で快挙だったように。『キッチンオブドラゴン 風の天龍炒飯』はマルチバースではないが、想像×創造性に富んだユニークでカオスな世界観。そして最終的に「愛は勝つ!」という普遍的なテーマが作品に揉み込まれ、じゅわっと味の沁みた映画。真面目に本作に取り組まれたクルーの皆さんに敬意を表し、僭越ながら大林千茱萸賞を贈ります。おめでとう御座います!
(大林千茱萸)

審査員賞(大槻貴宏賞)『あわい』

画面から、触れ合うことでしか伝わらない、生々しい体温や湿り気、その心地よさが確かに立ち上っていました。さらに、人を好きになるという、まだ輪郭の曖昧な「あわい」感情、言葉にしきれないまま漂う思いが、絶妙なバランスで描かれていたように思います。
その気持ちを相手には悟られたくない、でもどこかで知ってほしい。そんな揺れの中にいる彼らのもどかしさが胸に刺さり、思わずムズムズし、走り出したくなるような時間でした。
足の指に手の指を絡めるあの瞬間には、思わずドキッとさせられ、とても印象に残りました。
(大槻貴宏)

審査員賞(古厩智之賞)『サンタクロースたちの休暇』

「私の両親は爆死した」と語る女の子。娘というにはトウがたった「自称家出娘」。主人公たちが語る自らの境遇からも、作り手の「語ることが楽しい!」というエモーションが感じられる。
この映画は「お話すること」を楽しんでいる。…「こんなことがあったんだよ!」
2人の孤独な娘たちは同居して、ひとつの布団で眠ったり、お酒を飲んだりするようになる。話をするようになる。孤独な2人の間を行き交うのは「幸せ」だ。彼女たちは、サングラスのボブ(母父と書いてボブ笑)というギタリストと合流して、バンドを始める。その幸福感。
この映画は明確に、「幸せ」を描こうとしている。
「こんなことが起こったらいいね」と話して聞かせる力。太古の昔から人間だけがもってきた前向きな力。何もない人生を前向きにする「お話の力」。
「サンタクロースたちの休暇」にはそんな力があふれている。
(古厩智之)

実行委員会特別賞『生きているんだ友達なんだ』

主人公増田と彼女に絡む二人のやりとりに漂うユーモアが良いトーンになっていて、見ていて気持ちがいい。
増田の友人は、愛読書が「夜と霧」というちょっと変わった石井という女の先輩だが、彼女は「私たちは人生に問いかけられている」という言葉を残して途中で姿を消してしまう。そして、最後の方で説明がなくても彼女に何が起こったのか分かる話の運びがうまい。映画は映像をして語らしめよという感じで、無駄な説明的なセリフがなくても登場人物たちの心情が伝わってくるのがいいし、叶わなかった事の切なさが描けているところも良い。出しゃばり過ぎない清水という男の存在のあり方もうまい。主人公たちに起こることは決して楽しいことばかりではないが、変に落ち込むことはなく、ある意味爽やかさが残る。
最初は「結末が弱い」と思って見直した人もいたようだが、映像表現の美しさや全体のトーンの統一感も良く完成度ではやはり群を抜いていると感じたそうだ。なぜ「夜と霧」が石井先輩の愛読書なのか、この作品の内容と釣り合っているのか?という部分で若干悩んだという人もいたけれど。
ラストは、「増田の人生はきっとまだまだこれからやで」という石井の言葉のように、きっと増田は自分の人生を歩むと決めたのだろう。脚本、演出の確かさ、そして俳優陣も魅力的で良かった。
(うえだ城下町映画祭副実行委員長 角田千広)

総評

全体として、とても魅力的な作品が揃っていました。 長尺の作品には、それぞれに追うべき物語がしっかりと息づいており、僕たち観客をちゃんと導く力を感じました。
また、「15分以上」という制約の中で生まれた30分前後の短編には、独特の感情の機微が丁寧にとらえられていて、たいへん好感が持てました。
『あわい』をはじめ、『夢と進路』における女生徒と教師のあいだ、そして『輪郭』の二人のあいだに漂う悔しさや恐れといった、どうしようもない感情のざわめきには、思わずハッとさせられました。いずれの作品も、人間の複雑さを誠実に描こうとする意志が伝わってきました。
(大槻貴宏)


今年も多くの作り手のみなさんが上田に集まりました。
「お客さんとたくさん話せました」と喜ぶ方、作り手同士の再会、「私の作品に出てくれませんか」と俳優にお願いする方…。
映画を作っていて起こる最良のことがいくつか起こっていたように思います。
交流という、ものを作っていていちばん嬉しいできごと。
そんなことが起こる場を、時間を、作るお手伝いを引き続きできればと思います。
(古厩智之)