結果
賞 | 作品名 | 監督名 |
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大賞 | 『平坦な戦場で』 | 遠上恵未 |
審査員賞(大林千茱萸賞) | 『私の愛を疑うな』 | 浅田若奈 |
審査員賞(柘植靖司賞) | 『ゴミ屑と花』 | 大黒友也 |
審査員賞(古厩智之賞) | 『エイジ オブ エターナル』 | 目黒貴之 |
実行委員会特別賞 | 『ブライトロード303号室奥田美紀様宛て』 | 白田悠太 |
作品名 | 監督名 |
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『さまよえ記憶』 | 野口雄大 |
『最後の生活』 | 渡邉高章 |
『ドキュメント石垣島 2023年3月 陸自ミサイル基地開設の瞬間』 |
湯本雅典 |
『恋も噂も七十五日』 | 新庄凜々子 |
『たまには蜂蜜を』 | 邉 拓耶 |
『春の結晶』 | 安川徳寛 |
『そろそろ音楽をはじめようと思う』 | 小野親一 |
『にびさびの巣』 | 岡田 深 |
『ゴールド』 | 知多 良 |
『abend』 | 高橋佑輔 |
審査員コメント
大賞「平坦な戦場で」 遠上恵未監督
女の子も男の子も、性差を抱えながら大人になっていくのは大変だ…自分自身を振り返って、そんなことを考えさせられました。しかし、その性差こそが面白くもあり、本能に導かれながら、何故か惹かれあう。一方で、時の流れというものは残酷で、時間の流れと経験がその苦悩も快楽も薄れさせていく。男女に拘わらず、複数で何事かを営むとき、この繰り返しかもしれません。
この作品に登場する男女の高校生は大人に成長するときのかけがえのない一瞬の時間を捉えて、初々しい。ラスト、彼と彼女が選択した行動は、二人の、人としての一層の成長を予感させて愛おしく感じました。二人はいつも何かを食べている。何かを食べている高校生を見ると、応援したくなるのが不思議でした(笑)。女の子は食事する度に「いただきます」と、ちょこっと手を合わせます。冒頭の少し長すぎる無人のアイランド・キッチンといい、上手いなと感心しました。全編を通し、演出は丁寧で、よく練りこまれた計算と繊細さを感じました。俳優もその役柄を見事に担い、見る者に感情移入させます。複数で何事かを成すときの緊張感と楽しさが伝わってきました。(柘植靖司)
孤独な人たちが出てくる。
ペットのウサギの死が耐えきれず、男子高校生に金を渡し、性交を迫る中年女。お金を出せばやってあげる、と高校生たちのあいだで有名な若い女。「性」を糸口に他人と接点を持つ女たち。彼女たちの目が、喋り方が、そこにいる居方が、とてもリアルだ。孤独が肌にしみついて、それは彼女たちを侵食し、分かち難い。歩く孤独そのもの‥。彼女たちは主役ではない。主人公のひとりである少年をさらなる孤独の「平坦な戦場」に呼び込み、並走させる者たちだ。彼女たちの孤独が圧倒的なリアリティで少年に迫る。全ての人たちが孤独のタコツボに閉じこもっている日本が、六畳間にふいに現れる。日本はどこに行ってもそう。出口なんてない。その中で生きて行くには・・・。
圧倒的な絶望の中で、小さな声で希望を呟こうとする遠上監督にやられた。傑作です。(古厩智之)
審査員賞(大林千茱萸賞)「私の愛を疑うな」 浅田若奈監督
大事な人との関係性を大切に紡ぎたいーー本来は人として、とてもシンプルな気持ちが出発点なのに、その「相手」が家族でも、恋人でも、さらには異性でもない「同性の友だち」だと分かった瞬間、世間は一気に牙を剥いてくる。「そんなのうまく行かない」「長く続かない」「ただの友だちなんてあり得ない」とーー。でも、本当にそう? そう思い込むことで人と人との関係性を狭めてない? 多様な愛の可能性を奪ってない? 本作はそういう根源的な部分をとても素直に見詰め、かつ、とても丁寧に描いた秀作です。
朝のお弁当作りのカットで二人は恋人同士なのかと匂わせるが、実はそうでもないというオープニングから、ローラースルー、スカイツリー、光るモノから回るモノ、溜まる洗濯物という日常に繋がる映画的な導入部を始め、全体を通した編集のテンポがきちんとコントロールされていますし、主人公たちが住んでいる部屋割りも登場人物たちの心情に寄り添い、空間が、ちゃんと演出の装置となっています。
セリフの組み立ても、繰り返される「好きだね~」という言葉1つで登場人物の性格を観客に届けるなど、情報過多になりすぎない省略の演出も見事でした。
人と違うことは不安ですか? この映画を観た人が不安を脱ぎ捨て、新しい愛の形に出逢える予感がする。後ろ向きではなく、未来に向けて開かれていることに、映画の可能性を感じました。次作も楽しみにしています。おめでとう御座います!(大林千茱萸)
審査員賞(柘植靖司賞)「ゴミ屑と花」 大黒友也監督作品
エントリー・シートに「助監督として経験を積むことで監督になる道を選びました」とあります。助監督経験10年と聞きました。
現場の助監督として研鑽を積み重ねてきた経験が画面の至る所から伝わってきます。
助監督(特にチーフ助監督)は、映画制作の初期から監督の元で様々な打合せ、ロケハン、撮影現場、編集・仕上げ等々、監督の片腕として重要なポジションを果し、作品作りに貢献はします。しかし、(もちろん、意見を言うことはありますが)全ての決定権は監督にあり、作家として映画に参加することはありません。助監督として、一人の監督の傍に居続ける時、表現者として多くのことを学ぶと思いますが、一方で、首を傾げ、不満(?)、もしくは疑問を持ちながら、成長されるのだと思います。そして、何よりも、知らぬうちに画面を作る上での『気配り』というものが身についてきます。観客が目にしない画面の外にどれだけ気が配られているか、その注意力が画面を豊かにするのではないかと思います。私は(長年、映画制作の現場で働いてきた者として)この作品に大黒監督のその歴史を感じました。
昔の撮影所システムでは多くの人が助監督を経験し、監督になりました。映画監督として成功した人もあれば、テレビドラマ制作の世界に行った方もいました。皆さん、助監督時代に様々な技術を身につけられた訳ですが、問題は作家として、個性的であり、表現者として刺激的な斬新さを持ち得るか、ということだと思います。この作品には大黒監督の人となりが確かな技術に裏付けられて、素直に表現されていると思いました。
二人の主人公の設定をとても面白く感じました。30分という長さの作品ですが、二人のバックストーリーをもっと掘り下げて見たくもありました。登場する清掃車は夜の街を巡回してゴミを収集するのですが、うっすらと空け始めた道路を走り去る清掃車が印象的でした。積み重ねた経験を最大限に活かしながら、いつまでも素直に自分と向き合いながら、願わくば、ある種の毒を持ち続けながら、作品を作り続けられることを祈ります。
制作部の人間として、たぶん百人以上の助監督たちと数々の映画制作をしてきた者として、助監督・大黒さんが監督として作品を作られたことを個人的に嬉しく思われました。(柘植靖司)
審査員賞(古厩智之賞)「エイジ オブ エターナル」 目黒貴之監督
主役の売れないピン芸人サチオが猛烈にいい。客を殴るし、でかいことばかり言うのに卑屈だし、居酒屋バイトも気が利かないし、何よりネタがつまらないし・・・。
だけどサチオはあきらめない。涙や汗やお酒やしょーもないファンや、いろんなものに足を取られつついろんな言い訳を撒き散らしつつ進む。
ダメ人間なのに、望みもないのに、あきらめない。
そのエネルギーに触れるうちにサチオがすごく魅力的に見えてくる。こちらも熱をもたなくては、と思わせるほどかきたたせる。
演じたのは監督でもある目黒貴之さん。ご本人は優しく知的で、ぜんぜんあんなふうに迷惑まきちらすタイプじゃないので驚いた。どこから来たんだ?サチオ。
見たばかりなのにサチオにまた会いたくなる。(古厩智之)
実行委員会特別賞『ブライトロード303号室奥田美紀様宛て』 白田悠太監督
LGBTQを題材とした作品は、自主制作作品でも増えているが白田(はくた)さんの今回の作品は、定型にはまった一面的な描き方にとらわれていない。
ここでは、ハルコとミキの二人の主人公たちがレズビアンという立場で描かれているが、女同士であるとないとに関わらず、人間同士としての心の通い合いやすれ違い、そこからくる悩み、痛みについて物語が語られていく。
そして、その二人の間に、ソウタというLGBTQではない息子の苦悩を挟むことによって、人間同士の間にあるなかなか埋められない溝がいっそう際立つ組み立ても上手いと思う。
また、出会いや別れの舞台としての駅のホームの使い方も上手いなあと感じた。
これから、どんなテーマで映画を作って行かれるのかは分からないが、ジャンルにとらわれず色々な世界が描ける方だと思うので、いろいろ挑戦してみて欲しいと思う。(うえだ城下町映画祭副実行委員長 角田千広)